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イラストレーターとして生活する。

イラストレーターすざ木しんぺいのブログです。毎日絵を描いてお昼寝しています。

今年見に行ってよかったもの

今週のお題「今年見に行ってよかったもの」

 

静寂が夜に張り付いて、丘の上から街を見下ろす。

灯りがひとつまたひとつと消え、来る朝に向けて眠りにつく。

僕らはそれに目もくれなかった。

 

空に散らばった星の光が何万光年の旅を終え、地球へと不時着する。

月明かりは優しい。皆がそうごまをするものだから、あの丸顔は鼻を高くした。

 

でも、そんなことなど僕らにはどうでもよかった。

 

住宅地のLEDたちが次々に目を閉じ、闇が闇としての本領を

発揮していくにつれ

 

「まだかな……」と彼女が言う。

僕も同じことを思う。同じタイミングで。

 

丘に立つ二人はまるで、無人島で助けを待つ漂流者のようだな。

そう思った瞬間、救助船はやってきた。

 

艶かしい体を黒光りさせ、それでいて神々しい光に身を包んだそれは、

二人の目を、四つの眼球を虜にさせたのだった。

 

「きゃあっ!」待ち望んでたはずの彼女が悲鳴をあげた。

ぼくは、それに対応する余裕などなかった。

「……これが、序の口流星群……」

次々と、空を滑っていく力士たちを見守ることしかできなかった。

いや、彼らにしてみればそれだけで充分であったのだ。

 

相撲という誰も目にしたことがない戦場へと、旅立つ勇者にとって、

見送る者がいるというのはとても心強いのだ。

 

「みんな泣いてる」彼女が落ち着いた口調で言う。

「寒いんだよ」とふざけて返してみる。

すると「裸だもんね」などと乗せてくる。

 

「君には、そう見えるかい?」

僕は、力士が裸体だなんて思ったことは一度もない。

「まわしさえあれば彼らはどこでだって戦えるんだ」

 

「家に帰ろう」

天空の白い星とそれ以外の黒い全ての中、彼女の声が響いた。

二人は、何も言わず街の方へと歩き出す。

一年後、僕も旅立つであろう空を背にして。